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乳牛と主人そして命
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急性乳房炎

 こんにちわ、私は乳牛のみな子です。
今回、私のとなりに居る友江のお話をいたします。
友江はまだ3産を生んで4ヶ月です。この分娩でかなりダメージを感じていました。と言うのも分娩が約2週間遅れてしまい、約60Kgの過大児をカウキーパーで引っ張り出し、何とか分娩しました。そもそも分娩前からちょっともの食いが落ちていましたが、ご主人もその辺を感じておりちょっと心配しておりました。
 分娩後やはり、体調がすぐれず、またもの食いも回復しないので尿の検査をしたところケトージスでありました。
 ケト−ジスは尿のケトン体が増えてきた状態で体脂肪からエネルギーへの変換が順調に行かない代謝異常です。草類はなんとか食いますが濃厚飼料はほとんど食べないし、元気喪失、乳量低下の症状が出ます。分娩後間もないときに出る周産期病です。人間ではアルコールの飲みすぎで二日酔いに似ています。
 そこでケトージスの薬であるネオルノーゲンを朝晩一本づつ計4本のでなんとか回復しました。また乳房も分娩が遅れたせいか、かなり浮腫があり牛乳がすんなり出せない状態でした。ただ、どうも右前の乳房が張れいるみたいです。そこで乳房炎のPLテスターでの検査したところ、陽性であり中程度の乳房炎と判断され乳房炎の治療となりました。

 ではその治療を紹介して見ましょう
乳房炎は細菌性である場合がほとんどですので抗生物質で治療するのがごく普通行なわれています。ご主人も獣医さんに相談の上、ペニシリン系のネオペニチューブを使うことにしました。

 ところで、乳房炎を引き起こす細菌もいろいろあります。代表的な細菌は大腸菌、黄色ブドウ球菌、表皮性ブドウ球菌、連鎖球菌だと思いますが、これを検査で特定し、さらに抗生物質が効く効かないを調べる感受性検査を県の家畜保健衛生所に依頼すればよく効く抗生物質が解かります。
抗生物質も現在耐性菌の出現でかなり効きが悪くなっています。使いすぎは次々と耐性菌を増やし本当に効かなくなりますので、まずはペニシリン系から使用して見ます。
 細菌性でない乳房炎もあります。たとえば、真菌(カビ)とか酵母菌です。細菌を抗生物質で殺していると抗生物質が効かない真菌とか酵母菌による乳房炎に移行していることがあり、これもかなり厄介な慢性乳房炎となってしまいます。

 友江は乳房炎の乳房はやはり痛いらしくご主人が触ると後ろ足を上げていやがっています。また、首を曲げてご主人を見ています。治すためにはとにかく牛乳を搾りきってしまわないといけません。腐った牛乳は早く出してしまわなければ治りません。ご主人は足を上げる友江をなんとかなだめ、手搾りできれいに搾り取りました。ちょっと張れて硬くなっているのですがそんなにきついことはありません。
 ご主人はネオペニチューブを注入してさらに濃厚飼料を半減して経過を見ます。この時は熱が平熱の38.5度でしたのでそう心配は入りませんでした。乳房炎の乳房は当然手搾りで完全に絞りきって脱脂綿にアルコールをしみこませてよく乳頭口を拭きとってから注入します。急性期の乳房炎にかかった乳房はミルカーは付ける事は絶対にしてはいけないのです。それはもっと状態を悪くするためです。
 ビタミンAE剤も一袋1000万単位を飲ませました。ビタミンAEは細胞の免疫を上げ組織を復活する機能があります。

   まる1日たった次の日、脹れはまだ取れません。PLテスターで検査しても良い状態でないので、また手搾りで完全に絞りきって2回目のネオペニチューブを注入しました。もっとも、抗生剤は3日間は使用します。これは耐性菌を作らないための条件です。また2回目のビタミンAE剤も飲ませました。
3日目にも注入し翌朝の状態を見ますがあまりかんばしい状態でなく牛乳に大きいブツを伴い濾紙にはベタっとつく状態で改善の兆しが見られません。そこでご主人は獣医さんと相談してセファゾリンの抗生物質を注入することにしました。この薬は耐性菌の少ない新しい抗生物質です。

   ご主人は、濃厚飼料を徐々に戻しながらセファゾリンを注入してPLテスターで牛乳の様子を見ます。濾紙には、ブツは出るものベタ付きが消えて行き、改善の兆しが見えたのです。脹れも引いてあまり痛がりません。3日間セファゾリンを注入後さらにPLテスターの結果と濾し紙の状態をみますが、PLテスターは綺麗になってきたのに濾し紙は小さいブツが目に付きます。ここで獣医と相談でブツは乳房炎のごみで早くには消えないが、PLテスターの状態が改善していれば心配はないしょうとのことで経過を見ることにしました。
 やはり乳房炎の症状はだんだんと改善され3日後、休薬期間が終わり抗生物質の検査で(−)となり、体細胞の検査で34万と出たのでご主人の判断で出荷となりました。本当は体細胞は30万未満である必要がありますが、乳房炎が改善されればどんどんきれいになって行き、さらに綺麗な牛乳と合乳されれば30万未満となりますので十分です。やはり毎旬の検査で10万以下でありました。
友江にしてもやれやれと言った感じであったでしょう。結局牛乳の出荷停止は10日に及びました。

 ところで、休薬期間とは抗生剤が検出されなくなる時間または日数のことで、この期間は牛乳及び肉は食用として使用できません。また休薬期間が過ぎても抗生物質の検査で抗生物質が出ていれば当然出荷はできません。
体細胞とは、牛乳に含まれているおもに白血球と細菌との戦いで破れた白血球の死骸、乳腺細胞の剥離した細胞で30万未満が正常乳とされています。もっとも少ない数値の方がより綺麗であるのは当然です。乳房炎になるとこの数値が500万以上に跳ね上がります。治療して行くとだんだんと減少しますが慢性乳房炎になると、200万から50万となかなか30万未満になることはありません。
 ご主人が加入して入る組合では体細胞と細菌数、その他乳成分の検査は月3回の毎旬予告なしで検査されます。この結果に応じて乳代の単価が決まります。
特に、体細胞が50万以上と細菌数の50万以上は、汚い牛乳として大きい(−)付加が付けられ授乳拒否もあります。

 今回10日の牛乳の出荷中止ですみましたが、ばあいによってはさらに抗生物質の注入で15日間の出荷中止もまれではありません。急性が慢性に移行すると体細胞が50万以下に下がらなくなり、2ヶ月も3ヶ月も牛乳を捨てたり、さらにはその乳期全期間出荷できないこともあります。
牛飼にとっては乳房炎は乳牛の2代病の一つで最も怖い病気でありその経済的損失も大きいものがあります。もう一つの2代病は繁殖障害です。

 乳房炎の原因は
1)搾乳技術の未熟  ミルカーの付け過ぎで乳頭に傷をつけたり乳腺組織に傷をつけて  発病します。一本のミルククローにエアーが入り他のミルククローで牛乳が逆流して  乳頭に牛乳がかかる時など搾乳技術の未熟で起こります。
2)牛床の不潔  牛床が汚いと当然大腸菌など病原菌がうようよすことになる。また、  敷き料がおが屑、籾殻は適度の水分があり細菌の温床と言われている。この場合消石  灰を混合すると良いと言われている。
3)乳頭の損傷  乳牛は起きあがる時に後足のケズメでよく踏むことがあります。対策  はサブヒールをつける。でもこれでも踏みつけることもあります。乳房が垂れ下がっ  たのに多い。これには、乳房ブラジャーで吊り上げておくと良いが、いつも乳頭が擦  れるのでやはり乳房炎になりやすい欠点もあるようだ。
  また、体液が酸性に傾くアシトージスではやはり踏みつける確立が高いようです。対  策はアシトージスにしないように餌全体をよく吟味することです。とくに、澱粉過剰  、容易分解性蛋白質の過剰でアンモニア中毒も注意です。
4)体調不良によって免疫の低下  分娩後間もないときはやはり体調不良となりやすい  また、気温が高い時、湿度が高い時も乳牛はストレスを感じて体調が悪くなります。  ストレスには注意が必要です。
5)ミルカーの不調  ミルカーは真空圧で搾るのでその真空圧が変動してはいけません  古くなるとちょっとしたことで変動したり2台以上使っているばあいは、取り外した  時に変動してしまうこともありますね。10年以上のミルカーは取り替えた方が良いと  も言われています。でも高いからそう簡単ではありません。
  ミルカーの波動も重要ですし、直接乳頭にあたるライナーゴムもその弾力性が大切で  す。毎回の洗浄もきちんとやっていないと細菌が万と居ることになります。
6)搾乳時間の励行  毎回毎回の搾乳は必ず時間の励行がされないと乳房炎になります  。大体毎回20分以内に押さえるようにします。これは、ご主人のような乳牛ばかりで  なく他の仕事をしていると難しくなりますが気をつけたいものです。
7)エサの問題  乳量に対して養分が過ぎる時、少ないときが続く場合、また蛋白のア  ンバランス、さらに澱粉質過剰、硝酸体窒素が多い時。エサを急変した時、特に粗飼  料を急変すると第一胃の状態が悪くなる。

ようするに、飼養管理全般にわたって注意しなければ乳房炎は防げないようです。

 友江は平成9年の3月20日生まれです。ご主人と奥さんに前足を引っ張られながら生まれました。生まれた直後にはワラや乾いた布切れで水分をふき取っていただき、独房に入れられました。ご主人は分娩直後の母親から搾乳して、約4時間たって友江が立つ上がれるようになったところで、45度位の初乳を2リットル飲ませてくれました。始めての授乳はなかなか、哺乳バケツに吸いついてくれないので苦労します。まず手を吸わせて吸いついてくれば乳首をくわえさせますが、すぐにはずしてしまってなかなか飲まない物です。初乳の温度は40度以下に下がるしそれでもなんとか飲ませて一息です。

この初乳は下痢などの病気しないための免疫剤を大量に含んでいるので、子牛にとっては最も重要な物です
。  乳は40日間飲むのですが途中下痢もして抗生物質を調合していただいたこともあり奥さんにも結構苦労をおかけしました。

 離乳後は配合飼料と稲ワラやトウモロコシのサイレージなどを食べながら大きくなって行きました。奥さんには糞だしやエサをもらったりで、結構なついていたのです。この頃は最も友江は元気で何でもよくもりもり食ってどんどん大きくなって行きました。
平成10年6月に人工授精で妊娠して翌年3月に初めて分娩しました。そうです。まる2歳で成牛になるのです。そして私たちの仕事である牛乳の生産に入ったのです。

 友江は初産から結構乳を出していました。ご主人も可愛がってくれて良い関係が出来ていて、本当に幸せでした。2産も翌年3月に分娩し酪農家の一年一産を達成していたのですが、この2産の中ごろ乳頭を踏みつけてしまいご主人を相当苦しめておりました。当然ながら乳房炎になり完治しないので、とうとうご主人は盲乳の処置をしてメクラにしました。またこの夏は相当暑く扇風機を付けっぱなしで体温の上昇を止めたのですが、それにしても疲労しました。おかげでセキが出るようになりご主人は獣医さんに診てもらったのですが大きい障害はないらしいということでした。
 でもまた3産目をはらみ今年を迎えてのであります。そして3月に3産しました。まあ一年一産をやり遂げてきて、ご主人にとってはまあまあの乳牛で可愛がってもらっていたのであります
。 私たち乳牛は4産以上を目安に飼養管理され牛乳を出します。友江の今回3産は最も乳牛として能力を発揮する時なのです。

 さて、友江も元気を回復して乳量も順調に増えていき日量38kgまでとなり、ご主人も多いに喜んでおります。友江にしても満足しています。この期間が約3ヶ月ほど続きました。でも乳量は徐々に減少して33Kgくらいで、ほぼ一定で濃厚飼料も最中には11.5Kgから10.5Kgとご主人はくれていました。
ただ、乳房が肉質となって、搾りきりの悪い乳房となっていました。おそらく分娩が遅れて乳房が浮腫しすぎたのが原因かも解かりません。または、そういう血が入った系統であったのでしょうか。このため搾りきりが悪い乳房でした。

 ある晩、ご主人がエサをくれた時友江はエサを食おうとしません。ご主人は、おや?と思い体温計で肛門より検温してみました。なんと40.7度もあります。乳牛の平熱は38.5度です。人より高いのは、第一胃の発酵槽があるためです。でも、40度を超えるような熱はすごく高い熱で危険な状態です。
すぐ乳房を探って見ると前左の乳房が硬くなっています。手で搾って見るとブツブツとでてきます。完全な急性乳房炎で、危険な状態です。
ご主人はすぐ電話で獣医さんと連絡取り来ていただくことにしました。この間に、その他の乳房をミルカーで搾乳しましたがほとんど出ません。乳房炎の乳房は当然ながら、手で搾乳しますがブツブツとブツが出るだけです。配合は止めることにしました。もっとも、全く食欲がないので食べることはできません。

 獣医さんがかけつけて診療しますが重症であるので、炎症止めの注射を首の静脈からされました。これは抗生剤ではありません。そして、解熱剤で人にも使用される錠剤がよく効くので使用してみないかとのこと、これも2錠ほどいただくことにしました。
また乳房炎軟膏はどうしますかとご主人さんと相談されています。なぜ相談されるのかと言うと万一症状が悪化して回復困難となったとき休薬期間が過ぎないと肉に廃用出来ないからです。その場合牛舎でとにかく休薬期間が過ぎるまで待つしかないのです。たとえ死亡しても。休薬期間が過ぎれば、屠場に出して肉にされご主人の最後の経営に役立つことになります。屠場に出すのが普通です。

 ご主人さんは以前にひどい急性乳房炎で廃用をいくどか経験していて、そのことは十分に解かっています。でも、悪性大腸菌の場合、人でも問題なりましたが菌が死亡する時には、毒素を出してよりひどい状態に陥ってしまうこともあるのです。
そこで、あまり効きの良くないネオペニチューブを使用してみることにしました。でもこれの休薬期間は肉の場合7日です。セファメジンは3日ですが効きすぎて、毒素のことで心配したのです。今の時期6月の梅雨でもあり気温がそんなに高くないので、乳牛も弱っていないので大丈夫でしょうということになり、ネオペニチュ−ブに決まりました。これで獣医さんはお帰りになり、ご主人は解熱剤を飲ませさらに残っていた高熱菌も飲ませて、乳房炎軟膏を注入して治療を終えました。

 ところで、大腸菌はごく普通に牛床に入るといわれていますので乳牛の体力が弱まった時、免疫力の弱まった時に発病します。
 大腸菌による急性乳房炎は劇症的で、水をかけて良く冷やすことが良いとこの頃言われています。乳房を冷やすと大腸菌が弱まり炎症が治まりやすいのでしょう。また、炎症が続いて免疫力に打ち勝つとそこで毒素を出すとも言われています。さらに抗生物質の注射で菌をたたけば炎症は治まってきますが、この時に大腸菌は毒素を出すとされています。生態は毒素には弱いのでそうならないように菌を増殖させないことは、やはり冷やすのが一番良いのかも知れません。菌の種類によっては冷やすだけでは撃ち殺すことが出来なくて、膜を作って隠れてしまうように見える厄介な者もいて慢性化していきます。今回ご主人はこの冷やすことをしませんでしたが、ビニールチューブで乳房に巻きつけて水が出る穴を開けた物を作って持っています。これを水道に接続して流しっぱなしにすれば確実に冷やされます。しかしながら、当然牛床は水浸しで尿溜が一杯になって行きます。

ご主人は考えたのですがなぜ乳房炎になったのかを。絞りきれの悪い乳房はどうしても無理にミルカーをかけてしまうのが悪かったのか。ほかには心当たりがありません。友江は、清潔好きで乳房や尻を汚さずに糞尿をしていました。

 さて、翌朝まさかまさかが起こるとは心の奥にはあったけれどそこまでにはならないだろうと思いながら牛舎をあとにしたのです。

 その夜11時半にご主人は濃厚飼料をくれにやってきました。友江を見ましたが寝ていてその状態も良くないなと思いながら、友江以外の私どもに濃厚飼料をくれて糞をかいて帰っていきました。

 さて、次の朝、ご主人が心配しながらやってきました。友江は正規の牛床から体を3分の1前に出して寝ています。これは、起きあがれず体を前に出した状態です。心配の起立不能に陥っているのです。
 ご主人は早速熱を測って見ます。熱は平熱の38.7度まで下がっていますが、全く元気がなく起きあがれません。呼吸はごく普通の早さで、皮膚温は冷たく感じます。乳房炎している左側を下にしているため、乳房炎の状態が解かりません。右側の正常の乳房は柔らかく正常のようです。
 ご主人は、他の乳牛の餌やり、搾乳を始め終わりかけた時に獣医さんがやってこられ、起立不能にやはりおどろいておられます。さて、ここで治療開始となり、聴診器で心臓、肺、胃、腸の状態を確認取られます。胃と腸が動きが少ないとのこと、心臓もだいじょぶですとのことで、脱水症状を防ぐため、炎症を押さえる薬、リンゲル、ブドウ糖液、強肝剤の静脈注射をしました。
水はこうなると飲めないので何回もご主人がバケツで友江の口の所まで持っていきますがあまり欲しくないようで一口しか飲みません。

 昼にご主人がの牛舎をぞくと呼吸がかなり苦しそうにしています。息を吐く時にうめいているのです。人でもかなり苦しいときはやはりうめきますが、そんな状態です。あまり良くないようです。とにかく水だけは飲ませないといけないとご主人はバケツを向けますが、一口二口しか飲みません。まだ、目も脱水状態の様にはへっこんではいないようですが。
 糞が出ておりません。乳牛は大量の糞をしまし、尿も大量にやります。この糞と尿は見られないのです。状態がますます悪くなっているのをご主人は感じておられました。 もしかして、悪性の大腸菌にやられて、毒素が出てそのために体の各器官にダメージを与えているのではないか。

 夜にはさらに呼吸が苦しくてうなっています。熱を測るとまた40.5度まで上がっています。ご主人は獣医さんに電話を入れて状態を話して、解熱剤を飲ませることにしました。 この解熱剤は人のですので乳牛自体の研究はされていないそうです。獣医さんは肺炎には良い結果が得られいるが乳房炎のときは解からないと言われます。実は、昨年7月にも同じくこの私がいるご主人の牛舎で急性乳房炎でこの解熱剤を投与したことがあります。その時もやはり今回と同じく起立不能で廃用にしておりました。

 翌朝2日目の朝、獣医さんがこられて状態を診られますがかんばしくありません。呼吸が苦しく、唸り声も大きくなっておりました。獣医さんとご主人との話で、この唸り声は乳房炎のための唸り声ではなく胃から来ているようだとのことです。胃の動きが非常に悪い状態で、腸もあまり動いていないとのことです。このために糞が出ないのだそうです。 とにかく、脱水症状の輸液と強肝剤さらに、胃腸薬のテレペランを静注されました。

 夜になり、ご主人は体温を測りますが、また40.5度まで上がっているので解熱剤を獣医さん所まで取りに行き飲ませました。糞は出ません。
 ご主人は第一胃の状態を少しでも改善しようと思い胃液の移植をすることにしました。これには道具が要りますが、ご主人は持っておられるのです。私、みな子の前でご主人は準備を始められました。まさか私が犠牲になるのかと思うひまもなく、鼻を取られ固定されてしまいました。この胃液採取は大嫌いです。なにしろ鼻の穴よりゴムチュウブを入れられるので大変です。とうとうゴムチュウブが私に入れられ始めました。とにかく痛いので、首を曲げるのですがそれでもどんどん入れられます。喉から食道入り口で、いったん抵抗があります。ここは食道と気管の入り口で、ごくんと飲み込んだ時に食道に入りますが、気管のほうにも入ることがあり注意しなければいけません。ここで押しこまれると本当に鳴きたくなるほど痛いので嫌です。とにかくごくんと飲み込んだらゴムチュウブが入っていきました。ご主人は耳にチュウブの先をあてて音を聞いていますが、ブアーグウグウと音がしています。そして匂いがなんと臭いこと。間違いなく食道に入っていきました。こうなると痛さもさほどでなくなり楽になります。そしてゴムチュウブをさらに80cmほど入れて吸引用の注射器を取りつけ、一升ビンに胃液を取りますが、あまり吸引しすぎるとゴムチュウブに草が絡みつき胃液が出ません。ゆっくりと注射器を引いて吸引します。
これで胃液が吸引されて一升ビンに入っていきます。なかなか溜まりませんがそれでも15分くらいでいっぱいとなり、ゴムチュウブを引き出していただきました。本当に痛かったです。  この胃液をビールビンに移し変えて友江に飲ませます。ビールビンで3回飲ませて終わりましたが、よけいに苦しがっています。

   普通、この胃液は食滞にはよく効きます。牛の第一胃は他力本願の発酵槽です。原虫が繁殖しながら牛が食べた草や穀類を分解しているのです。そして第4胃でこの原虫も消化吸収されるのです。この第4胃が人の胃袋と同じ働きをしているのです
。 とにかく第一胃は、攪拌して草を混ぜてガスが出れば口よりげっぷさせる作用があり、醗酵した養分も吸収します。醗酵が正常であればどんどん原虫が増えていきます。胃液投与は、この原虫を入れて醗酵を正常に戻す力があるのです。

 翌朝3日目の朝、状態はさらに悪くなり、唸り声も大きくなっています。獣医さんが検温すると38.7度と熱は平熱ですが、体温計についた糞は柔らかくなっているのでもうすぐに出るでしょうとのことです。
 大体、昨日ごろからご主人はもうだめと解かっていたようですが、何しろ乳房炎軟膏ネオペニチューブの休薬期間が終わらないので肉にも出荷で来ないので、なんとか命だけは持ちこたえてくれるようにと願っていました。
獣医さんが帰られてまもなく、糞がドロドロと少量ですが出てきました。これは、内容物が胃から押し出され腸の正常な動きによって押し出された糞とは全く違った物で状態の悪い糞であることに、ご主人は気が付かれました。とにかく脱水症状にしては良くないので、バケツで水を与えますが3リットルくらいしか飲めません。
 正常であった上にしている右側の乳房も硬くなりだしました。乳房炎が出てきたのです。  夜、体温は正常値です。熱が出なくなりましたが全体の症状は悪くなるばかりです。頭をまげて体につけたり、頭を投げ出したりと本当に苦しそうです。今夜も今度はとなりの郁子が犠牲となって胃液採取を受け、胃液投与しましたがどうもかんばしくありません。
 命のある動物は、その命が消えそうな時、大変苦しむようですね。人の場合、こんな時は痛み止めの注射で、苦しみを一時的でも忘れることが出来るのですが。

 翌朝4日目、獣医さんが検温されても体温は正常値ですが状態は回復どころか悪くなる一方です。糞もドロドロと少量出ている状態です。でも獣医さんが牛舎の縁から取ってきたクズの葉を、一葉だけ食べました。リンゲルの静注して帰られました。
 こうなるとご主人さんも気がめいってきたようで、きつい顔つきになっておられます。もう4日生きていてくれよなと、言っておられます。それは休薬期間が終わるまでの日数です。

   夕方下痢がひどくなりました。目が落ち込んでいます。完全なる脱水状態で危険です。ご主人はバケツで水を与えると、苦しそうでもなんとか10リットル飲んでくれました。友江もよっぽどのどが乾いていたのでしょう。でも水を飲むと余計に苦しく唸ります。
獣医さんは、水を飲めば一晩で脱水症状が改善されることもありますよと言っておられるのですが、それを願う意外ないでしょう。
また3回目の胃液投与が私から行なわれて、もう鼻の粘膜が痛くてしょうがありません。しかし、いくら胃液の投与しても胃の状態が改善して動く様子は全くありません。

 その晩、相当に苦しいらしくかなりの声で唸り出していました。ご主人の住宅は、牛舎と隣り合わせですので、その声が聞こえてくるくらいの大きさでありました。

 翌朝5日目、ご主人が牛舎に入ると唸り声が少し小さくなっています。バケツで水を与えるとなめるような格好をしますが、とてももう飲めないようです。そして、口を開けながらの呼吸に変わっています。この呼吸は終末の呼吸であることをご主人は知っています。後躯の痙攣がすでに始まっているのです。この友江の命ももうそんなに長くないでしょう。本当に苦しんできましたが、もうすぐに楽になるよ、友江。
それから、15分後、体全体に痙攣が始まりました。口を大きく開けて吸いそしてうめきながらの呼吸しています。脳幹の最後の指令で呼吸させていますが、その脳幹が死ぬ時なのです。
 呼吸が弱くなりました。そして、5回ほど弱い呼吸から呼吸が止まりました。友江さん、あなたを助けることが出来ませんでした。最初に乳房を水で冷やしていれば、こんな結果にはならなかったかも知れない。今、悔やんでも仕方ないが、今後の経験とし、ご主人はきっとそうすると思います。本当にご苦労さん、これで楽になったのだな。天国でしっかり美味しい牛乳を出して天女に飲ませてあげなさい。
 さようなら

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