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乳牛と主人そして命
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6季節 梅雨、夏  削蹄のプロフェッショナル 

皆さん、こんにちわ、私は乳牛みな子です。
これは、私たち乳牛の一生、そしてご主人との付き合いの物語です。

6季節

 日本は季節が四季ありますね。これは人間の世界の事で我々乳牛は六季あるのです。
六季とはどのような事と申しますと、まず春、そして梅雨、夏、秋雨、秋、冬となります。
これは、我々乳牛にとって季節感がかなり異なることなのです。人でも中にはこのような感じ方される方も居られるかも知れませんが、乳牛でははっきりと季節感が異なります。

 【春】 この季節は我々乳牛には気持ちの良い時期です。気温も、冬からの寒さから開放され暑くも無く寒くも無く気持ち良い季節です。気温の感じ方は人より約5度は低い方が良いのです。15度から20度位が最もしのぎ易いですね。暑さには汗の出ない我々乳牛は弱いです。そして、寒さには結構強いです。それは、胃袋を四つ持つ乳牛は第一胃は醗酵曹で常に熱を出しているからです。湿度も乾燥している方がしのぎ易くて大好きです。
こんなわけで春は草もぐんぐん伸びる季節で大好きな季節の一つですね。

 【梅雨】 この季節は湿度も高く特にむんむんするような時は大嫌いです。気温が25度超すようになり、雨ばかり降るようになると牛床の細菌も増え乳房炎におびえるようになり大変です。

 【夏】 この季節は30度超し、夜も熱帯夜で人も大変ですが我々乳牛はもっと大変な季節で物食いも落ちますし、乳量は激減します。さらに暑さであえぎ体温も上昇して、口を開けての荒い息で大変な季節です。

 【秋雨】 この季節は暑い夏を何とか通り越して涼しくなって来たのには来たのですが、雨が多く多湿で体力が弱っている我々乳牛にはおかしな季節で夏ばてが出やすく病気になりやすい季節でもあります。

 【秋】 秋雨も終わり、大陸育ちの乾いた高気圧がやってくるようになれば物食いもどんどんと進み、夏ばても解消して元気になります。

 【冬】 急に気温が下がり隙間風が入るのは嫌いですが、少々の寒さには我々乳牛はこたえません。どんどん草を食べ、醗酵曹の胃袋から暖を取ります。乳もどんどん出します。



六季 梅雨

 こんにちわ、六季の中の梅雨についてお話します。

 今日は、朝からなにか生暖かい空気が牛舎に流れて来ています。ご主人のラジオから東シナ海で発生した低気圧が発達しながら日本海に入ってくると放送しているようです。
気温ももう26度で、今日は嫌な感じです。

 ご主人は朝の搾乳前で牛床の糞かきしながら独り言を言っておられます。「なんか今日はムンムンしているな、牛舎全体が湿って乾かないな。こんな時は、乳房炎に注意しなくては。」
飼槽に餌のイタリアンサイレージを入れようとしましたが、昨日の餌が残っています。先週まではほとんど残さなかった餌を、近頃急に残すようになりました。やはり、暑さと湿気のせいでしょう。「もっと食ってくれれば良いのに」と言いながらサイレージをくれました。そして、トーモロコシサイレージとヘイキューブとをくれます。
私は、まずヘイキューブを先に食べます。そして濃厚飼料が来るのを待っていますがご主人はなかなかくれません。
 ご主人は搾乳準備に取りかかりました。湯をミルカーに吸わせて洗浄し、前拭き用のバケツに移します。そして、最初の搾乳で隣の恵子の前搾りを黒い寒冷紗が張ってあるカップに取ります。これをよくよく見てブツの無いのを確かめます。それから、前拭き用のタオルを中程度に絞り乳頭だけをふき取ります。乳房全体を拭くことはしません。それは、乳房自体が大きいし、きれいにするのは大変だからです。絞らないタオルで拭くようなことでもあれば細菌が乳頭に流れて乳頭を汚すことにもなります。
また乳を出す射乳ホルモンは乳頭の刺激で出てきますので乳頭だけをきれいにふき取り刺激を与えれば良いのです。
ところで、恵子は尻ぐせが悪く糞で乳房を汚しているのでご主人はタオルを洗いきれいになるまでふき取りました。最後は硬く絞って拭きます。こうすることで乳頭の水分を切り、乾燥させます。乳房炎を防ぐためですね。
さて乳房が射乳ホルモンの影響で張ってきたので、すぐにミルカーを装着します。洗い始めて約一分位までにはミルカーを装着するのが一番です。こうすることで射乳ホルモンが出ている中での搾乳ができスムーズに搾乳できるのです。

 カッチン、カッチンとパルセータ−の規則正しい音が気持ち良く聞こえます。でも、近頃急に多くなったハエがうるさく足や体に止まります。しっぽで払うのですがすぐにさばり付きます。勢いあまって大きくしっぽを振ったところ、ご主人の顔に当りました。ご主人は麦わら帽子をかぶっているのですが帽子のふちを超えて顔にあたったので、「こら!痛いがな。搾乳中はおとなしくしてくれ」と怒鳴っています。
5分ほどで乳房が柔らかくなりストップつまみを引いて一気にテートカップを外します。
まだ乳房には乳は完全に絞りきれていませんがその方が乳房に負担をかけないで乳房炎になりにくいのです。
恵子の搾乳は終わりました。すぐに固く絞ったタオルで乳頭をふき取りテートコート剤をスプレーで吹き付けます。もちろんこれは持続性殺菌剤で乳房炎予防の為に行ないます。
 ここで、ご主人は濃厚飼料を袋ごと提げてきて乳量に合わせた量をボールで与えてくれます。私のところはボール2ハイです。これでご馳走の濃厚飼料が来たのでガツガツと食べるのですが、なんか体が暑くてどうもほんとの食欲が出ません。本当に濃厚飼料が振りかけてないと食われないですよ。
濃厚飼料は負担が大きいので先に粗飼料を食わせ第一胃内でルーメンマット状になったところに濃厚飼料を食わせます。さらに一回の濃厚飼料の量を2.5k以下にして多回数に分けることで負担を減らせます。とは云っても濃厚飼料の振りかけが一番ですよ、HI、ご主人様。

 つぎに私の搾乳の順番です。恵子と同じように前絞りでよくブツが出ていないか確かめてタオルでふき取り搾乳です。やはり6分ほどで13KGの乳が搾り取られました。搾り取られた牛乳は直ちにバルククーラーに漏斗の濾し紙を通して入れられます。この濾し紙の通過速度で大体、体細胞の異常に気が付くものです。ほんのちょっとでも濾し難いと乳房炎で体細胞が100万以上になっているものです。もっともここで気が付いてももう遅いのですが。もちろん私の牛乳はきれいですのでサッと濾せました。

 次々と搾乳も終わり最後に花子の番です。花子はこの冬に3産していますが4月に乳房炎をやり、抗生物質での治療でもあまり効かなくてご主人も困っている状態です。
前絞りでこの乳房が本当に針の頭ほどのブツをだしたのです。もちろんご主人は見逃すことはありません。すぐにPLテスター(乳房炎検査液)で検査します。その結果、色はさほど変わらないのですが、粘張度が悪く乳房炎だと解かりました。ご主人は独り言で「また再発だな、今日は低気圧が来るそうだから外仕事は出来そうもないから、家畜保健所で検査してもらおう」
この乳房はミルカーを付けないで手絞りし、搾乳を終わりました。
外に出てみるとポツポツと雨が降り出しています。

 牛舎の中は、湿気と気温が高いこと、我々乳牛の体温とでムンムンしています。その上、ハエどももしつこくてしっぽで追い払うのですがとてもたまりません。ストレスがどんどん溜まっていくのがわかるような日です。
ご主人に扇風機出してくださいと言うのですが言葉が通じないのか、まだ出してくれません。もう一度言って見ます。「モー、モウー、扇風機出してモー」

 ご主人は朝ご飯を食べて出てきました。そして、牛舎に入りあえいでいる私どもを横目で見ながら餌のビートパルプと濃厚飼料をくれました。そして農機具庫の方に歩いて行きます。
扇風機を引っ張りだしてセットしてくれます。私の声が届えたらしいです。「良かった、良かった、モー」
やはり扇風機の風は気持ちが良いです。生き返ったような気持ちになりストレスも解消です。

 ご主人は、乳房炎のサンプルが入ったガラスチューブを持って自動車に乗り込みました。この6月から県の家畜保健衛生所が20数キロ先に引越ししたため今までより遠くなり大変ですが、国立公園大山回りで行くことにしました。
大山内の道路は先月走った時タンポポが黄色い花を沢山つけて咲ていました。里より一ヶ月は遅いようです。やはり標高の800mの山中です。今日は、花も終わりあの一面が黄色に覆われたのがウソのようです。数台の自家用車とすれ違いながら大山寺から舛水を通り越し、40分くらい走ると高速の米子道のインターの看板が見えてきました。この交差点を通り越したすぐ横道に家畜保健衛生所があります。新しい木造作りの建物です。
今は、雨も強くなってきています。

 玄関で牛乳の感受性の検査と菌の特定をお願いすると、「お茶でも飲んでください」と招待を受けたので、それではと長くつを脱いでスリッパに履き替え事務室に入りました。
今日は乳牛担当の独身の美人技師先生は外出しておられません。
ここで、この花子の乳房炎の状態と経過を説明して検査室を覗かしていただきました。

 ところで、花子はカビの一種でカンジタ菌に感染していて慢性経過をたどっていますが、良くなったり悪くなったりで、すっきりしません。
技師先生のお話ではカンジタで汚染される牛舎は見なくても大体解かるとおっしゃいます。
牛舎は付近が建物があったり、ブロック塀があったり、立木があったりで風通しが悪く、また乾燥し難い牛床で、敷き料がモミガラやノコクズであることで、とにかくじめじめで乾きの悪い牛舎だそうです。対策は消石灰を降る事が一番早いとの指導を受けました。もっともご主人も時々消石灰を撒いてはくれますが。
確かにこの何点か私の牛舎に当てはまります。大きな西条柿の木があり、風通りが悪いですね。また古い牛舎で牛床の湿気対策が取られていないことが全くそのとおりです。
一時間ほどお茶と説明を聞いて家畜保健衛生所を出ると雨が本格的に降っています。そして南西の風が吹いており非常にむせ、なんともいわれない過湿の天候です。

昼前に自宅に帰り扇風機が回っているのを確認してからビートパルプと濃厚飼料をくれて住宅に帰って行かれました。

 ところで、この梅雨の時期は我々乳牛のストレスが溜まり、病気に対する抵抗力が落ちる季節でもあります。
突然の発熱と乳房の張れで始まる急性乳房炎もこの時期は多くなります。そして重症経過たどり廃用となるのもこの季節と秋雨の季節には多くなります。

 昼過ぎに朝に頼んでいたA獣医さんが妊娠鑑定にやって来られました。
このA獣医さんは開業医で繁殖にはめっぽう強く、牛の生理に合わせた治療されます。むちゃくちゃなホルモン治療はやられません。
この3月に初産でちょっと低カルシューム症をやった私が3回目の授精でなんとか付いたようで鑑定していただくことになったのです。
「今日は蒸し暑いですね、こんな日は牛も大変です」「そうですね、今日扇風機を引っ張り出しました」「それは良いですね、これからは扇風機も回りっぱなしですね」「そうですね、でもまだ、夜は止めますよ」「今日のような雨降りは夜は涼しくなりますからね」

 A獣医さんは、ビニールの直腸検査用手袋をはめて肛門に右手を差し込みます。ご主人は私の鼻繰りを持って固定しています。何回か直腸に溜まっている糞を出し直腸からの子宮の状態や卵巣の状態を探り直腸検査です。
しばらく探って「妊娠していますね、43日ですか?」「そうですね、ちょうど発情予定日ですので42日ですよ」 また探りながら「だいじょぶです。順調に大きくなっています」
と、肛門から手を引き出し妊娠鑑定が終わりました。

 A獣医さんの妊娠鑑定は35日位からやられますが40日までは再鑑定をする必要があるとのことでご主人は40日過ぎて発情予定日の42日にお願いしております。
ところで直腸検査による妊娠鑑定は職人はだで、40数日での鑑定は非常に難しいです。この時期の鑑定は外れることがあるのでA獣医さんしかお願いしません。

 この時期の鑑定で問題となるのは日にちより小さい場合、卵巣の黄体の大きさが小さく機能が悪い場合です。どちらも流れることがあります。よって流産予防の注射をしますが今回は順調でその心配は無いとのことです。

 雨も強くなり気温も24度まで下がってきました。明日は雨も止むとの情報がNHKのラジオを聞いているご主人に入って来ました。扇風機はとりあえず夕方まで回すことにするとご主人は思っています。

 ところで、牛舎内はかなり湿り、水が浮いたようになっているので、家畜保健衛生所で聞いてきた消石灰を撒く事に決めたご主人は農協支所に電話を入れ問い合わせをして見るとあるとのことで、奥さんが早速買いに走りました。

 夕方、牛舎に入ったご主人はカッパをきてサイレージを入れる袋を持って外のサイロに向かいました。奥さんは飼槽の残り分を育成にまわし、飼槽をきれいに掃除をして、それから牛床の糞かきをし、ネコ車でボロだしです。
サイレージはイタリアンとトーモロコシで一頭当たりおよそ20Kで6頭分の120Kを出してきました。

 さて、子牛の哺乳も終わり、搾乳も終わり、牛床と通路にご主人は消石灰を撒きましたが、軽いので牛舎全体に飛び散り、乳牛が咳き込み出しました。私も咳き込み大変です。ご主人は止めていた扇風機をまわして空気の入れ替えをしてくれたので多いに助かりました。
この上にモミガラの敷き料を敷いて広げてご主人は帰って行かれました。

 二日後、雨はもう上がっていますが、湿度の高い6月の太陽はとても熱く扇風機は回りっぱなしです。
夕方、家畜保健衛生所からの電話で、乳房炎の菌はやはり真菌のカンジタでかなりの量が出ているとの検査結果を頂き、ご主人も疲労感いっぱいの顔で牛舎に入ってこられました。



  六季 夏

 こんにちわ、六季の中の夏についてお話します。
 今年は早く暑くなり、関東地方は7月早々に梅雨明け宣言がさかのぼって出されたのですが、我山陰地方は晴れて暑いのにまだ梅雨明け宣言は出されません。 気温は連日のように33度以上と、もう私たち乳牛にとっては大変な季節となりました。

 乳牛は汗をかきません。と云っても体の状態の悪い時など時として毛が濡れるほど汗をかく事もあります。でもこれは異常で特別です。
で、乳牛は人間と同じく常温動物ですので体温は維持しなくてはいけません。乳牛の平熱は38.5度です。もちろん人間より高めの体温ですね。これは、四つある胃袋の三つまでが醗酵している為で、特に第一胃は他力本願の醗酵曹です。醗酵をスムーズに維持することで、38.5度の体温が平熱なんです。

 乳牛は沢山の草や穀類を食べ盛んに第一胃で醗酵します。この醗酵熱をどんどん放熱する必要があるのですが、気温が高い夏はそう簡単ではありません。
放熱する即ち体温を維持するには、人は皮膚と汗の蒸発で、冷たい飲み物で、犬は皮膚と呼吸、舌ですが、乳牛は皮膚と呼吸と水ですね。
放熱が悪いと体温が上がってきます。40度くらいまで上がれば、もう口を開けてよだれを出しながらあえぎだします。限界になりますね。
そこで乳牛は盛んに水を飲みます。そして、盛んに小便をします。これが結構牛舎内を過湿するのですが、乳牛は高温と過湿は大の苦手です。

 酪農家はいかに夏を快適な環境するか考えています。扇風機を回したり、大型扇風機を何台も天井に吊り下げたり、ダクトを付け乳牛の頭付近で噴出し口をつけやはり大型送風 機で風を送り込んだり、さては細霧装置と扇風機を利用した蒸散で熱を下げるなどお金と工夫で乗り切っています。
我ご主人は6頭の小規模酪農ですので工場用扇風機を3台回しています。これにタイマーが取りつけてあり、夜は、間欠扇風機にもなります。
以前は2台の扇風機でしたがそれでも3台にしてくれました。

 ところで、私たち乳牛も放熱は立っている方がしやすいです。特に四本の足や下腹部は放熱板です。ところが、足が痛いととても長時間立っている事が出来ません。やはり乳牛も人間も足腰しっかりしていないとダメですね。
また食べ物でも熱が発生しやすい物があります。問題になるのは、消化に時間がかかり第一胃に長時間滞留するものは、熱を持続的に発生しエネルギーを消費する硬い繊維の物です。これには稲ワラなどが入り、気温が高い夏は欲しくもありません。やはり一番良いのは、消化の良い稲科の乾燥、そして、一度醗酵しているサイレージ、少量の青草ですね。
 この夏の時期はとても乳成分の無脂固形分が低下しやすいです。規定値8.5%を割ることがあってはならないのですが、以前ご主人は稲ワラを2k位くれていた頃は良く割っていました。でもオーツヘイ乾燥と生菌剤をくれるようになってからは割ることはなくなりました。
飼料代はかかり大変ですがやはり乾燥は良いですね。

 夏は、餌を食っている乳牛は意外と大丈夫なのですが、乳量の多い乳牛や座ってばかりいる乳牛、分娩前後の乳牛は餌を食べなくなりよだれを出してあえぎ出すようになると体温も40度前後まで上がるようになります。
7月の後半と8月一杯は出産は、ご主人は控えるようにしています。初任牛は8月一杯は控えています。
この夏期間は牛乳は需要が伸びる期間です。よって、組合はなんとかして乳量を確保したいので季節単価は高く設定してありますが、酪農家にとって見れば、乳牛の体力的に限界のある季節で、一発の劇症型の乳房炎をすれば廃用にでもなりかねない夏は出来るだけ分娩は避けるのです。



削蹄のプロフェッショナル

 さて、電話がなり以前から頼んでいた削蹄師から今日来るとの連絡が入りました。
申しこんだのは6月の上旬だったのですが削蹄師の都合で7月の今日になりました。前回の削蹄は昨年11月でしたので8ヶ月ぶりです。
ただ爪の悪い1頭は特別に4月にお願いして削蹄してあります。
今日はご主人は葉たばこの収穫を予定していましたが、収穫を取りやめ乾葉外しすることにしました。

 朝から今日も暑く重労働の削蹄は大変ですので大型扇風機をセットして削蹄師さんの汗を吹き飛ばし、環境を良くします。
削蹄師さんは全国競技会で優勝されたプロフェッショナルでよく牛の状態を見て削蹄してくれます。

 まず、後ろ足からです。ゴム板の上に後ろ足を載せ、ナタで伸びた先端と周囲を落とします。次にロープで片方の後ろ足を吊り上げます。
この時は私達乳牛は大変です。何しろロープで吊り上げられるので痛いは、不安定にはなるはで、暴れ騒ぎます。場合によっては後ろ足一本では、身体を支えることが難しくて寝てしまいそうになることともあり脱臼しそうです。それでもなんとか3本足で立つことが出来、削蹄して頂くことが出来ます。
よく後ろ足は蹄病になっていることがあります。爪を切っていくと出血後があったりまだ炎症中で穴があき、大変痛がることもあります。私も出血跡が見つかりましたが炎症は治った後でした。でも、秋子は穴が開いていたので乳房炎軟膏の抗生物質を穴に差し込み治療をしていただきました。
また、酸性に傾くアシトーシスにかかると乳牛は蹄に炎症が来ます。穴があいたり、皮膚と蹄の付けね当りに炎症が起こります。
乳牛は600KGの体重を支えている蹄の病気は命取りです。また蹄が悪いと、この夏の暑さに勝てません。そうです、立っていることで放熱しているのが座っていては出来ないので暑さに負けてしまいます。
ところで、ロープで吊り上げ出来ない牛も居ります。このような牛は、手で持ち上げて削蹄しますが削蹄のプロは肘を閉めて足を固定します。こうすると牛は意外とおとなしくなりますね。全く不思議です。素人が真似しても蹴り上げられば、数メートルは飛んでしまいます。本当にプロでなくては出来ないことです。
ここで削蹄鎌で切りとるのですが、おもに先端が伸びるので先端を多めに切り取ります。きれいに鎌が入り鉛筆をナイフで削っているような軽さで爪が削られます。
と云っても、爪はそんなに柔らかくはありません。よく研ぎあげた鎌と熟練した腕でこのように見えるのです。
型を整え、角度を整えてから、人間と同じ土踏まずを作り足を下ろします。
牛舎内でつなぎっぱなしの乳牛は足が弱くなり爪も変形しやすくなります。あまり伸びすぎて変形してからの削蹄は難しく、足自体が変形してしまいます。ですのでこのようにならないように1年に2回は、削蹄してやるのが、畜主酪農家の務めです。

   後ろ足が終わると今度は前足です。
やはり、ゴム板を入れてナタで先端を整えます。
そして足をもたげるのですが、牛はこんなことは嫌なのでおろそうとして体重を乗せてきます。乳牛の体重は約600kgですのでそれは大変ですが、ここで降ろしてしまえばそれを知った牛は必ず体重を乗せてきます。ですので、削蹄師さんは我慢して降ろしません。
牛も一応なれて3本足で立ってくれるとガスバーナーで爪を焼きます。これは、柔らかくするためで乾いたコンクリートの牛床におる乳牛の爪は非常に硬いです。
次に鎌で切って行きます。古い爪と新しい爪の境界に白くなった白線がありそこまで切り次に人間と同じく土踏まずを作ります。
後ろ足の角度はちょっと寝かせ気味で前足は立ち気味になります。 それと副蹄(け爪)を切って終わりです。
前回は3人で来られたのですが今日は1人でしたので6頭で午前中かかりました。 暑い中、汗だくで本当にお疲れ様でした。

 コーヒー飲みながらお話したのですが削蹄師さんは1000頭以上の乳牛を受け持ているとのことで驚きました。また全国協議会のお話やこれから行なわれる中国大会のお話を聞きました。
今日はこれからお隣に行き、削蹄されます。
牛舎内の温度計は33度を指しています。今日も暑いですね。
 削蹄が終わり我々乳牛達もほっとして座って反芻をしております。この夏を乗り切るのにはやはり足元をすっきりさせて立つ時間を長くさせてやりたいです。
 ところで、我ご主人も時々削蹄をされます。爪が変形して来るようなのは、寝ている時に、鎌で切ってくれますが、最初は切らせても、いったん痛い目に合うともう鎌を見た瞬間起きあがって切らせない仲間もおります。
ご主人は時としてロープで後ろ足を吊り上げて切られる時もあります。プロの物まねですが、まあ、なんとか削蹄できるようです。

 夕方、秋子は切った足を痛がっています。かなり痛そうです。ご主人は「無理したのか、獣医に痛み止めの注射していただいた方が良いかな」と云って電話をかけられました。A獣医は「それは削蹄で関節に無理な力がかかったためで心配無いでしょう。様子を見られたら良いです。」と返事が返ってきました。「そうですか、それでは様子を見てみます」とご主人。
1週間は本当に痛そうにしていました、段々と良くなっていくようなのでご主人も安心されたようです。

 夏から秋にかけては、吸血害虫のもっとも盛んな時です。
吸血害虫とは、刺しバエ、蚊、アブなどですが普通のハエもおります どっちにしても厄介な吸血鬼ですね。ストレスの発生源です。

 8月の中旬、花子が物を食べません。早速ご主人は体温計を肛門に差し込み検温されました。40.3度あります。平熱は38.5度すので、この体温はかなり高く危険な状態ですのですぐにA獣医に電話されました。
今年の夏は本当に暑く私達乳牛はバテ気味です。暑さ負けでも体温が上昇しますが、その場合呼吸がみだれよだれを出しながらあえぎます。でもそんな様子も無いので乳房炎の検査をしてみますが反応が出ません。
A獣医は聴診器で肺の呼吸音や心臓の音など聞いて診べます。「どうも肺の音がちょっと悪いですね。心臓も早いですが、暑さのせいかも知れません。注射しておきます」と炎症を押さえる注射をされました。
夕方、やはり体温は下がりません。ご主人は「乳房炎も無いし暑さ負けでも無いようだし、肺炎かな。なんとか熱が下がってくれれば良いのにな。」
乳量ががた落ちです。物食いも進みませんが、なんとか食うのは食っています。 翌日、A獣医さんもこられて状態を診察して、「肺炎かもしれませんね、炎症を押さえる注射します。」と注射されます。

 ちょうどこの頃、太平洋では超大型台風が四国当りに上陸の構えをみせており、風もきつくなり、雨もぱらつくようになっています。夕方、台風は紀伊半島に上陸し、勢力も弱まりこちらの方では10m位の風と小雨で終わりそうです。
ご主人は、花子を外に連れ出しました。小雨と風で体温を下げようとするためです。
花子は外で雨風に当りながら「モー、モー」と鳴いています。どちらかというと帰りたいと言っているように聞こえました。
1時間半ほどで牛舎に帰ってきました。体温を測ってみると39.5度です。まだ高いですね。
翌朝、A獣医さんは、「元気はそんなに悪くないがやはり体温が高いですね。例の熱さましを飲ませてみますか。肺炎には良く効きます」と2錠の薬を置いて帰られました。早速ご主人は飲ませました。
晩に体温を測ったご主人はビックリしておられます。「わあ、37.5度しかない、下がり過ぎだ。」
獣医さんに電話してみると「そうですか、効きすぎたようですね。大丈夫でしょう、平熱に戻りますよ」と云われます。
花子もそれから段々と物食いも回復し、2日後平熱の38.5度になり全快したとご主人は喜びました。

 集乳車が乳質検査結果を持ってきています。
この検査は月の毎旬ごとに指定日なしの抜き打ち検査です。
開いて見ると、脂肪率4.21、蛋白質率3.26、乳糖4.63、無脂固形分8.89、体細胞5.1、細菌数5.0です。
この夏とくに注意するのは、脂肪率が3.5%以上、無脂固形分が8.5%以上、体細胞が10万以下の目標、細菌数が10万以下の目標ですので、一応目標達成で、この数値はしかしながら立派です。夏が終わるまでこの調子でいきたいですね。

 今年の夏も終わりに近づいています。本当に暑く、大変でしたが、なんとか乗りきりました。この夏の期間、乾乳していたのが2頭おり、管理としては楽の方でした。

今年は台風以降、雨が多くなりました。これから六季の秋雨に移って行きます。
気温は下がるのは大変結構なのですが、湿度が上がり、夏ばてが出るのもこの秋雨の時期です。乳房炎や、肺炎など気を付けなければならない季節が始まります。 分娩予定が2頭おり順調に分娩させたい物です。

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